つれづれ memo & feel

旅の記録と日常の出来事をメモする

「インビクタス」とラグビー・ワールドカップ

先日のブログに書いたように、南アつながりで映画「インビクタス/負けざる者たち」に行ってきた。


物語は、ネルソン・マンデラ南アフリカの大統領に就任直後、アパルトヘイトで大きく隔たった黒人と白人の距離をいかに縮めるかということで行った一つのエピソード。一年後に迫った自国開催のラグビー・ワールドカップをその良いチャンスだと、黒人を中心とした国民のラグビー熱を盛り上げていく。白人主体の南ア・チームを、新しい南アの象徴として全ての国民が一つになって応援できるよう、また決勝まで勝ち上がっていくチームの精神的なサポートをしていく感動的なストーリーである。





この1995年に開催されたワールドカップは、私の記憶のなかにも残っている。
ラグビーのワールドカップは、サッカーよりも歴史は浅く、第1回大会が開催されたのは1987年、この物語の大会は1995年で第三回目になる。アパルトヘイト時代は国際大会から締め出されていた南アが初出場したワールドカップである。


突如としてラグビー界に戻った南アの強さは衝撃的だった。日本も出場しているが、決勝で南アと対戦したニュージーランドオールブラックスに「145対17」という歴史的大敗を屈した苦い思い出もこの大会。映画の中でその点数にマンデラが驚いていたシーンもある。そのオールブラックスのロムーも驚きの選手であった。フォアードでもおかしくない巨体で短距離選手並の走りをするウィングバックとして脚光を浴びた。これ以来、大型バックスの時代の幕開けとなった。映画でも、ロムーをどう封じるかが南ア優勝のポイントとして描かれている。


勝戦の南ア対オールブラックスの試合は、すべてがペナルティゴールとドロップゴールの得点である。つまりトライが無く、普通は大味な試合になるのだが、手に汗を握る良い試合だった。その興奮も良く映像化されている。


などなど、映画を見ながら本筋から離れて、当時のラグビーで興奮した記憶の再確認をしている自分がいた。
ちなみに、次回の第7回大会は来年2011年ニュージーランドで行われる。そして、2019年の第9回大会は日本で開かれることになっている。


映画を観ると、あのワールドカップの裏側でこんな物語があり、それが当時の南アの快進撃の推進力だったのかと納得しながら感動を覚える。そして、マンデラ大統領の偉大さが改めて認識できた。黒人として屈辱のなか30年近く投獄されて、「今は卑屈な復讐をする時ではない。憐れみ深さ、おくゆかしさ、寛大な心を示すことが重要だ」と言えるのは並大抵の人ではない。


そのマンデラの精神的支えであったのが、この映画のキーワードで、タイトルにもなっている「インビクタス」という詩である。この詩は、イギリスの詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリーが書いたもの。インビクタス(Invictus)はラテン語で、英語では”unconquered”となり、日本語に直訳すると「征服されない」という意味になる。副題として「負けざる者たち」としているが、映画を見た後の感じでは「屈せざる魂」とした方が、プレッシャーや抑圧に耐えながら打ち勝つという意味合いが出て良いと思った。


この映画を見たいと思ったのは、クリント・イーストウッドの監督作でモーガン・フリーマンマット・デイモンというキャスティングであった。皆、好きな俳優さんだ。特にモーガン・フリーマンは、何を演じても渋く、素晴らしい俳優である。マット・デイモンは、最近立て続けに見た「ボーン」シリーズのイメージが頭のなかでなかなか消えなかった。


映画に少し難を付けるとすれば、マット・デイモンが演じる南ア・チームのキャプテン・ピナールが、チームの士気を高めていくところをもう少し描いてくれれば、こちらの感動も深くなったろう。そして、ラグビー試合のシーンは実際の進行に忠実だったのだろうが、興奮した観客のシーンへの切り替わりが多く、もう少し試合のシーンを使って盛り上げることをして欲しかった。最後の、ドロップゴールもあんなにフリーで簡単に決まったのではなく、ギリギリの攻防のなかで蹴ったと記憶している。


最後に、"Invictus"の詩を英文と日本語訳で付けておく。
この詩を一度読んでから映画を観るのも悪くないと思う。

Out of the night that covers me,
Black as the pit from pole to pole,
I thank whatever gods may be
For my unconquerable soul.


In the fell clutch of circumstance
I have not winced nor cried aloud.
Under the bludgeonings of chance
My head is bloody, but unbowed.


Beyond this place of wrath and tears
Looms but the Horror of the shade,
And yet the menace of the years
Finds and shall find me unafraid.


It matters not how strait the gate,
How charged with punishments the scroll,
I am the master of my fate:
I am the captain of my soul.


Invictus - Wikipedia

私を覆う漆黒の夜
鉄格子にひそむ奈落の闇
私はあらゆる神に感謝する
我が魂が征服されぬことを


無惨な状況においてさえ
私はひるみも叫びもしなかった
運命に打ちのめされ
血を流しても
決して屈服はしない


激しい怒りと涙の彼方に
恐ろしい死が浮かび上がる
だが、長きにわたる脅しを受けてなお
私は何ひとつ恐れはしない


門がいかに狭かろうと
いかなる罰に苦しめられようと
私が我が運命の支配者
私が我が魂の指揮官なのだ


詩『インビクタス』