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法律の背後にあるもの

「「法令遵守」が日本を滅ぼす」(郷原信郎)を読んで、法律というものの本質を改めて考えさせられた。


「法令遵守」が日本を滅ぼす (新潮新書)

 公共調達ををめぐる談合問題、ライブドア村上ファンド事件、耐震強度偽装事件など、最近社会的問題となった経済事件の多くは、何らかの形で法令やその運用が経済実態と乖離していることが背景になっています。それにもかかわらず、問題が解決するどころか、一層深刻な事態を招いているのです。
 このように法令やその運用と経済実態との乖離が一層深刻な状況になっている背景には、国家公務員倫理法などの影響で、法令の作成や執行をおこなう官庁の公務員と民間人との接触が少なくなり、官庁側の認識が経済社会の実情とズレてしまっているという現実があります。

近年の事例を取り上げて、法令遵守という行為の結果でなにが良くなったかの検証を行う。一部でコンプライアンス不況と揶揄されるように、法的な規制だけでは本質的な解決に至っていなく、社会的な経済活動の後退こそあれ、その向上には寄与していないのが現状である。企業における安全や品質に関する活動も、形だけの法令遵守だけに向けられて、本来成すべきことから乖離していく。

法令の背後には必ず何らかの社会的な要請があり、その要請を実現するために法令が定められているはずです。だからこそ、本来であれば企業や個人が法令を遵守することが、社会的要請に応えることにつながるのです。

つまり、法律の意味、個々の法令が制定された背景にある社会的要請を捉えないで、表層だけのコンプライアンスを繕うだけのことしかしない社会的風潮を国が作っていると言う。ここにある「背景にある社会的要請」に如何にして応えるかということが全体を通しての中心課題になっています。


法体系においても、判例法である米国などに対して、成文法である日本の法律は時代変化に対して改正されず、法と実態の乖離が解消されていない弊害も大きいとある。特に経済に影響を与える会計法会社法、労働法がひずみをもたらしている。そして、それらの法律の目的がぶつかり合う領域で不祥事を呼ぶ。


企業の経済活動についてだけみても、最高規範の憲法の下に民法、刑法という基本法があって、会社法独占禁止法、労働法、知的財産法、証券取引法などの重要な法の体系がある。それぞれの法律同士が相互に密接に関連し合っている。

 これまで多くの法学者はその専門領域の中だけで物事を考えようとし、タコツボの中に入って出てきませんでした。そのため企業法相互の関係を考え、体系化しようという発想がほとんどなく、それが経済社会における法の機能を阻害していたのです。
 実は多くの企業不祥事が、複数の法律の目的がぶつかり合う領域で生じています。その法律の目的と背後にある社会からの要請に加えて、関連する別の法律の背後にある価値観も視野に入れなければ、問題の根本的な解決にはつながりません。それは、企業に関する法体系を体系化して「面」でとらえるということです。
 それなのに、相変わらず法令を一つひとつ「点」でとらえて個々の法令違反の問題にしてしまっているのが、形式的な法令遵守の考え方です。それが法令の背後にある社会的要請を全体的に実現していくことを妨げています。



さらに、官僚とマスコミの弊害が取り上げられている。時代遅れとなった官僚政治と、それに癒着してジャーナリズム精神を失いつつある御用マスコミの実態がここにもある。

一層ひどくしてしまうのが、官庁発表報道、「法令遵守的報道」をたれ流す御用マスコミの存在です。官庁とマスコミが結びついた圧倒的なプレッシャーの下では、企業側には、単純に法令遵守をおこなうことしか選択肢はないように思えます。



最後に、コンプライアンスを単なる「法令順守」と考える風潮でなく、「組織が社会的要請に適応すること」と定義して企業または組織が行動することが成長を生むと提案する。

 日本では単純に法令遵守を徹底しても、世の中で起きている様々な問題を解決することにはつながりません。法令の背後にある社会的要請に応えていくことこそがコンプライアンスであると認識し、その観点から組織のあり方を根本的に考え直してみることが重要です。

これをフルセット・コンプライアンスと呼んでいる。

 第一に、社会的要請を的確に把握し、その要請に応えていくための組織としての方針を具体的に明らかにすること。第二に、その方針に従いバランス良く応えていくための組織体制を構築すること。第三に、組織全体を方針実現に向けて機能させていくこと。第四に、方針に反する行為が行われた事実が明らかになったりその疑いが生じたりしたときに、原因を究明して再発を防止すること。そして第五に、法令と実態とが乖離しやすい日本で必要なのが、一つの組織だけで社会的要請に応えようとしても困難な事情、つまり組織が活動する環境自体に問題がある場合に、そのような環境を改めていくことです。

ここで最も重要なことは、

大切なのは、法令がいかなる社会的要請に基づいて定められているかについて共通認識を持つことです。それによって、法令の本来の目的に沿った柔軟な対応ができます。

とある。文字面だけを追うと簡単なことのように見えるが、どう「社会的要請」を読み取って、どう「共通認識」させるかが最も難しいことだと考える。この二つの点が、経営者としての資質を問われるところであろう。